ACTで全般性不安障害を乗り越える – 新しい心理療法の可能性

ACT(Acceptance and Commitment Therapy)
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全般性不安障害(GAD)に悩む人は少なくありません。過度の心配や不安が日常生活に支障をきたし、生活の質を著しく低下させてしまうこの障害。従来の**認知行動療法(CBT)**による治療が一般的ですが、近年注目を集めているのが「アクセプタンス&コミットメントセラピー(ACT)」です。

ACTは従来のCBTとは異なるアプローチで不安に向き合います。本記事では、ACTの特徴全般性不安障害への効果について、最新の研究結果を交えながら詳しく解説していきます。

ACTとは何か

ACTは「アクセプタンス(受容)」と「コミットメント(約束)」を重視する心理療法です。1986年にスティーブン・ヘイズらによって開発されました[1]。

ACTの目標は、不快な思考や感情を変えようとするのではなく、それらを「あるがまま」受け入れること。そして、自分にとって大切な価値観に基づいた行動を取ることです。

ACTの6つの中核プロセス

ACTは以下の6つの中核プロセスを通じて心理的柔軟性を高めることを目指します[1]:

  1. 今この瞬間との接触
  2. 認知的脱フュージョン
  3. アクセプタンス
  4. 文脈としての自己
  5. 価値
  6. コミットされた行動

これらのプロセスを通じて、不安や心配にとらわれすぎず、自分らしい人生を歩めるようサポートします。

全般性不安障害(GAD)とは

全般性不安障害は、過度の心配や不安が6ヶ月以上続く状態を指します。以下のような症状が特徴的です[2]:

  • コントロールできない心配
  • 落ち着きのなさ
  • 疲れやすさ
  • 集中力の低下
  • 筋肉の緊張
  • 睡眠障害

GADは成人の約5%が経験するとされる比較的一般的な不安障害です。適切な治療を受けないと慢性化しやすく、うつ病などの併発リスクも高まります。

ACTはGADにどう効果があるのか

ACTは全般性不安障害の治療に効果があることが、複数の研究で示されています。

ACTとCBTの比較研究

アーチらの研究(2012)では、混合不安障害患者128名を対象に、ACTとCBTの効果を比較しました[3]。

結果、ACTはCBTと同等の効果を示し、特にうつ症状を併発している患者においてACTの方が優れた効果を示しました。

また、ヘイズらの研究(2010)のメタ分析では、ACTは不安障害全般においてCBTと同等以上の効果があることが示されています[4]。

ACTの作用メカニズム

ACTがGADに効果を発揮する理由として、以下のようなメカニズムが考えられています:

  1. 心配への過度の注目を減らす
    • 認知的脱フュージョンにより、心配を単なる「思考」として捉えられるようになる
  2. 不確実性の受容
    • アクセプタンスにより、将来の不確実性を受け入れる姿勢が身につく
  3. 価値に基づいた行動
    • 不安を避けるのではなく、自分の価値観に沿った行動を取れるようになる
  4. マインドフルネススキルの向上
    • 今この瞬間に意識を向けることで、過度な心配から解放される

これらの要素が相互に作用し、GAD症状の改善につながると考えられています。

ACTの具体的な技法

ACTでは様々な技法を用いて、6つの中核プロセスの習得を目指します。GADの治療でよく用いられる技法をいくつか紹介します。

1. マインドフルネス瞑想

目的: 今この瞬間に意識を向ける練習をします。具体的には以下の方法があります:

  • 呼吸に意識を向ける
  • 体の感覚に注目する
  • 周囲の音に耳を傾ける

これにより、過度な心配から意識をそらし、現在に焦点を当てる力が身につきます。

2. 認知的脱フュージョン

目的: 思考と距離を置く練習をします。具体的には以下の方法があります:

  • 心配な思考を「〜という思考がある」と言い換える
  • 思考を葉っぱに見立て、川を流れていくイメージをする
  • 思考を声に出して繰り返し、単なる音として捉える

これにより、思考に振り回されにくくなります

3. 価値の明確化

目的: 自分にとって大切なものを探る作業をします。具体的には以下の方法があります:

  • 人生の様々な領域(家族、仕事、趣味など)で大切にしたいことを書き出す
  • 自分の葬式でどんなスピーチをしてもらいたいか想像する
  • 理想の1日をイメージする

これにより、不安に縛られず、自分らしい人生の方向性が見えてきます。

4. エクスポージャー

目的: 不安を感じる状況に段階的に向き合います。ただし、ACTでは「不安を減らす」ことが目的ではありません。代わりに、不安を感じながらも価値に基づいた行動を取ることを目指します。具体的には以下の方法があります:

  • 社交不安がある人が、緊張しながらも友人との約束を守る
  • 健康不安がある人が、不安を感じつつも定期健診に行く

これにより、不安があっても行動できる自信がつきます。

ACTを日常生活に取り入れるコツ

ACTの考え方を日常生活に取り入れるためのヒントをいくつか紹介します。

1. 「今、ここ」に意識を向ける習慣をつける

  • 食事や入浴など日常的な行為に意識を向ける
  • スマホを見る時間を減らし、周囲の環境に注目する

2. 思考を客観視する練習をする

  • 「私は〜だ」ではなく「〜という考えがある」と言い換える
  • 思考を紙に書き出し、距離を置いて眺める

3. 不快な感情をあるがまま受け入れる

  • 不安や心配を無理に押さえ込まず、その存在を認める
  • 「この不安が消えるまで何もできない」ではなく「不安を感じながらでも行動する」

4. 価値観を意識した小さな行動を積み重ねる

  • 毎日、自分の価値観に沿った小さな行動を1つ実践する
  • 行動した後の感想を記録し、振り返る

5. 自分を励ます言葉をかける

  • 「完璧にできなくてもいい」「一歩ずつ前に進もう」など、自分を励ます言葉を用意する

これらの実践を通じて、ACTの考え方が少しずつ身についていきます。

ACTの限界と注意点

ACTは多くの人にとって有効な治療法ですが、万能ではありません。以下のような限界や注意点があります。

即効性がない

  • 効果が表れるまでに時間がかかることがある
  • 短期的には症状が悪化することもある

抽象的な概念が多い

  • 「アクセプタンス」や「脱フュージョン」などの概念を理解するのに時間がかかる場合がある
  • 具体的な行動指針が欲しい人には物足りなく感じられることも

薬物療法との併用が必要な場合がある

  • 重度のGADの場合、ACTだけでは不十分なことがある
  • 主治医と相談の上、薬物療法との併用を検討する必要がある

セラピストの力量に左右される

  • ACTを適切に実践できるセラピストを見つけることが重要
  • セラピストの経験や技術により、効果に差が出る可能性がある

研究の蓄積がまだ十分でない

  • CBTほど長期的な研究結果が蓄積されていない
  • 特定の症状や患者群における効果については、さらなる研究が必要

これらの点を踏まえた上で、自分に合った治療法を選択することが大切です

まとめ

ACTは全般性不安障害(GAD)に対して有効な治療法の1つです。従来のCBTとは異なるアプローチで、不安や心配と向き合う新しい方法を提供します。

ACTの特徴は以下の通りです:

  • 思考や感情を変えようとするのではなく、あるがまま受け入れる
  • 価値観に基づいた行動を重視する
  • マインドフルネスや認知的脱フュージョンなどの技法を用いる
  • 心理的柔軟性を高めることを目指す

研究結果からは、ACTがGADの症状改善に効果があることが示されています。特に、うつ症状を併発している患者に対しては、CBT以上の効果が期待できる可能性があります。

ただし、ACTにも限界はあります。即効性に欠けることや、抽象的な概念の理解に時間がかかる点などは留意が必要です。また、重度のGADの場合は薬物療法との併用が必要になることもあります

GADで悩んでいる方は、ACTを選択肢の1つとして検討してみてはいかがでしょうか。ただし、どの治療法が自分に合うかは個人差があります。専門家に相談しながら、自分に最適な治療法を見つけていくことが大切です

ACTの考え方を日常生活に少しずつ取り入れることで、不安や心配に振り回されず、自分らしい人生を歩む力が身についていくはずです。

参考文献

National Center for Biotechnology Information. (n.d.). Acceptance and commitment therapy for generalized anxiety disorder. Retrieved from https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4537636/

National Center for Biotechnology Information. (n.d.). Acceptance and commitment therapy for anxiety disorders: A brief review. Retrieved from https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3496779/

Choosing Therapy. (n.d.). ACT for anxiety. Retrieved from https://www.choosingtherapy.com/act-for-anxiety/

University of Colorado Boulder. (n.d.). ACT for anxiety disorders: A brief review. Retrieved from https://www.colorado.edu/clinicalpsychology/sites/default/files/attached-files/landy_schneider_arch_2015_act_for_anxiety_disorders_brief_review_copy.pdf

MIRECC. (n.d.). ACT strategies guide. Retrieved from https://www.mirecc.va.gov/visn16/docs/act-strategies-guide.pdf

Frontiers in Psychology. (2020). Acceptance and commitment therapy: A comprehensive review. Retrieved from https://www.frontiersin.org/journals/psychology/articles/10.3389/fpsyg.2020.00356/full

The Clinics: Psychology. (2017). Acceptance and commitment therapy for anxiety disorders. Retrieved from https://www.psych.theclinics.com/article/S0193-953X%2817%2930077-1/abstract

ScienceDirect. (2020). Effectiveness of acceptance and commitment therapy for anxiety disorders. Retrieved from https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2212144720301940

Cambridge University Press. (n.d.). Randomized controlled trial of acceptance and commitment therapy and cognitive-behavioral therapy for generalized anxiety disorder. Retrieved from https://www.cambridge.org/core/journals/behaviour-change/article/abs/randomised-controlled-trial-of-acceptance-and-commitment-therapy-and-cognitivebehaviour-therapy-for-generalised-anxiety-disorder/E5A035290202050DED8A753E194C8AC3

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