子どもの頃の逆境的な体験は、その後の人生に長期的な影響を及ぼす可能性があります。このような体験は「逆境的小児期体験(Adverse Childhood Experiences: ACEs)」と呼ばれ、近年注目を集めています。一方で、**認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy: CBT)**は、さまざまな精神疾患の治療に効果的であることが示されています。本記事では、ACEsがもたらす影響と、CBTがACEsによる悪影響を軽減する可能性について探ります。
ACEsとは
ACEsは、18歳未満の子どもが経験する潜在的にトラウマとなりうる出来事を指します[5]。具体的には以下のような体験が含まれます:
主なACEsの種類
- 身体的・精神的・性的虐待
- ネグレクト
- 家庭内暴力の目撃
- 家族のメンバーの自殺未遂や自殺
- 家庭内の物質乱用問題
- 家族のメンバーの精神疾患
- 両親の離婚や別居
- 家族のメンバーの服役
これらは完全なリストではなく、他にも食糧不足、ホームレス経験、差別などのトラウマ体験が含まれる可能性があります[5]。
ACEsの影響
ACEsは非常に一般的で、アメリカの成人の約**64%が18歳未満に少なくとも1つのACEを経験したと報告しています。また、約17.3%**の成人が4つ以上のACEを経験したと報告しています[5]。
ACEsは子どもの脳の発達、免疫系、ストレス反応システムに悪影響を与え、注意力や意思決定、学習能力に影響を及ぼす可能性があります。また、健全で安定した人間関係を築くことが困難になったり、大人になってからの仕事や経済面での問題、うつ病などのリスクが高まる可能性があります[5]。
さらに、ACEsは以下のような長期的な健康問題のリスクを高める可能性があります[5]:
- 心臓病
- がん
- 糖尿病
- 自殺
ACEsによる健康への影響は甚大で、アメリカ、カナダ、バミューダにおける年間の経済的負担は推定7480億ドルに上るとされています[5]。
認知行動療法 (CBT) について
認知行動療法(CBT)は、1960年代にアーロン・ベックによって開発された心理療法です。CBTは、うつ病、不安障害、摂食障害、物質乱用、パーソナリティ障害など、さまざまな精神疾患の治療に効果があることが多くの研究で示されています[8]。
CBTの基本的な考え方
CBTの基本的な考え方は以下の通りです[8]:
- 心理的問題は、部分的に不適切または有害な思考パターンに基づいている
- 心理的問題は、部分的に学習された不適切な行動パターンに基づいている
- 心理的問題を抱える人々は、より良い対処法を学ぶことで症状を軽減し、より効果的に生活できるようになる
CBTの主な戦略
CBTは主に以下のような戦略を用います[8]:
- 問題を引き起こしている歪んだ思考パターンを認識し、現実に照らして再評価する
- 他者の行動や動機をより良く理解する
- 困難な状況に対処するための問題解決スキルを身につける
- 自信を高める
- 恐れに向き合う
- ロールプレイを通じて潜在的に問題のある対人関係に備える
- 心を落ち着かせ、体をリラックスさせる方法を学ぶ
CBTは通常、週1回のセッションを限られた期間行います。治療者と協力して問題を理解し、治療戦略を立てていきます[8]。
CBTのACEsへの適用
ACEsを経験した人々に対するCBTの効果については、いくつかの研究が行われています。
CBTの効果に関する研究
2020年に発表された99の研究のメタ分析によると、CBTはACEsを経験した人々の精神健康の改善と健康リスク行動の減少に最も強いエビデンスを示しました[7]。CBTは以下のような点で効果的である可能性があります:
- トラウマ関連の思考や信念の修正
- ACEsを経験した人々は、自分自身や世界、他者に対して否定的な信念を持っていることがあります。CBTはこれらの信念を特定し、より適応的な思考パターンに置き換えることを助けます。
- 感情調整スキルの向上
- トラウマを経験した人々は、強い感情に圧倒されることがあります。CBTは感情を認識し、管理するためのスキルを教えます。
- 対処戦略の開発
- CBTは、ストレスや不安に対処するための健全な方法を学ぶ機会を提供します。これは、ACEsを経験した人々がしばしば発展させる不適応的な対処メカニズムを置き換えるのに役立ちます。
- 自己効力感の向上
- CBTは、クライアントが自分の思考や行動を変える能力があることを認識するのを助けます。これは、ACEsによってしばしば損なわれる自己効力感を高めるのに役立ちます。
- 再トラウマ化の予防
- CBTは、トラウマ体験を直接扱うことなく症状を改善することができます。これは、トラウマ体験を詳細に語ることで再トラウマ化のリスクがある場合に特に有用です。
- 社会的スキルの向上
- ACEsは健全な対人関係の発達を妨げる可能性があります。CBTは、効果的なコミュニケーションや境界線の設定などの社会的スキルを教えることができます。
- 身体症状の管理
- ACEsは様々な身体症状を引き起こす可能性があります。CBTは、これらの症状に対処するための技術を提供することができます。
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