PTSDに苦しむ多くの人々にとって、効果的な治療法を見つけることは長年の課題でした。従来の心理療法や薬物療法には一定の効果がありますが、すべての人に適しているわけではありません。そんな中、近年注目を集めているのがEFT(Emotional Freedom Techniques)です。このブログ記事では、EFTとは何か、PTSDの治療にどのように役立つのか、そしてその効果を裏付ける科学的根拠について詳しく解説していきます。
EFTとは
EFTは、1990年代にゲイリー・クレイグによって開発された心理療法の一種です。この手法は、東洋医学のツボ理論と西洋心理学の認知行動療法を組み合わせたユニークなアプローチを取っています[1]。
主な特徴:
- 体のツボを軽くタッピング(叩く)しながら、ネガティブな感情や記憶に焦点を当てる
- 認知の再構築と身体的な刺激を組み合わせる
- 自己実践が可能で、専門家の指導なしでも行える
EFTは「臨床EFT」として標準化され、100以上の臨床試験で有効性が検証されています[1]。
PTSDとその影響
PTSDは、トラウマ的な出来事を経験した後に発症する精神疾患です。世界中で7000万人以上が罹患しており、米国だけでも700万人が影響を受けています[1]。
PTSDの主な症状:
- フラッシュバック
- 悪夢
- 過度の警戒心
- 不安や抑うつ
- 睡眠障害
- 社会的孤立
PTSDは単に精神的な問題だけでなく、身体的な健康にも深刻な影響を与えます。ストレスホルモンの乱れ、免疫機能の低下、心血管系の問題など、様々な身体症状を引き起こす可能性があります[1][2]。
EFTのPTSD治療への応用
EFTは、PTSDの症状を軽減するための効果的なツールとして注目されています。その理由は以下の通りです:
- 短期間での効果: 多くの研究で、4〜10回のセッションで顕著な改善が見られています[1][3]。
- 多様な対象者に適用可能: 退役軍人、性暴力被害者、事故の生存者、自然災害の被災者など、様々な背景を持つPTSD患者に効果が確認されています[1][3]。
- グループセラピーにも有効: 個人セッションだけでなく、グループセラピーでも効果が認められています[1]。
- 併存症状の改善: 不安やうつなど、PTSDに伴う他の症状も同時に改善される傾向があります[1]。
- 副作用のリスクが低い: 薬物療法と比較して、副作用のリスクが極めて低いことが報告されています[1]。
- 生理学的な改善: ストレスホルモンの減少や遺伝子発現の変化など、身体レベルでの改善も確認されています[1][2]。
- 長期的な効果: 治療効果が長期間持続することが多くの研究で示されています[1][3]。
- コスト効率が高い: 従来の治療法と比較して、費用対効果が高いとされています[1]。
EFTの科学的根拠
EFTの効果については、多くの研究が行われています。以下に、主な研究結果をまとめます:
- メタ分析の結果: Sebastian & Nelms (2017)によるメタ分析では、EFTのPTSD治療効果について大きな効果量(Cohen’s d = 2.96)が報告されています[3]。
- 従来の治療法との比較: 眼球運動脱感作再処理法(EMDR)や認知行動療法(CBT)など、既存のエビデンスに基づく治療法と比較しても、同等以上の効果が示されています[3]。
- 生理学的変化: EFT介入後、コルチゾールレベルの37%減少、安静時心拍数の8%減少、収縮期血圧の6%減少、拡張期血圧の8%減少が観察されています[2]。
- 免疫機能の改善: 唾液中の免疫グロブリンA(SIgA)が113%増加したという報告もあります[2]。
- 心理的症状の改善: 不安(40%減少)、うつ(35%減少)、PTSD症状(32%減少)、痛み(57%減少)、渇望(74%減少)などの顕著な改善が見られています[2]。
- 幸福度の向上: 幸福度が31%増加したという報告もあります[2]。
これらの研究結果は、EFTがPTSD治療において有望なアプローチであることを示しています。
EFTセッションの流れ
典型的なEFTセッションは以下のような流れで進行します:
- 問題の特定: クライアントが抱えている問題や感情を特定します。
- 強度の評価: 問題の強度を0〜10のスケールで評価します(主観的障害単位:SUD)。
- セットアップフレーズ: 「この問題があっても、自分を深く受け入れる」といったフレーズを唱えながら、手の側面(空手チョップポイント)をタッピングします。
- タッピングシーケンス: 頭頂、眉の内側、目の外側、目の下、鼻の下、あごの下、鎖骨、脇の下などの特定のツボを順番にタッピングしながら、問題に関連するフレーズを繰り返します。
- 再評価: タッピング後、問題の強度を再評価します。
- 繰り返し: 必要に応じてプロセスを繰り返します。
このプロセスを通じて、トラウマ記憶に関連する感情的な反応が徐々に和らいでいきます。
EFTのメカニズム
EFTがどのように機能するかについては、いくつかの理論が提唱されています:
- 神経生物学的アプローチ: タッピングが扁桃体の過剰な反応を抑制し、ストレス反応を調整する可能性があります[1]。
- エピジェネティクス: EFTがストレス関連遺伝子の発現を変化させる可能性が示唆されています[1]。
- 心理学的メカニズム: 認知の再構築と曝露療法の要素が含まれており、これらが相乗効果を生み出していると考えられています[1][3]。
- エネルギー理論: 東洋医学の概念に基づき、体内のエネルギーの流れを調整するという考え方もあります[1]。
これらのメカニズムが複合的に作用し、PTSDの症状改善につながっていると考えられています。
EFTの実践方法
EFTは専門家の指導の下で行うこともできますが、自己実践も可能です。以下に、基本的な実践方法を紹介します:
- 問題の特定: 取り組みたい具体的な問題や感情を選びます。例:「戦場の記憶がフラッシュバックする」
- 強度の評価: その問題の強度を0〜10で評価します。
- セットアップフレーズの作成: 「この戦場の記憶があっても、自分を完全に受け入れ、深く愛している」
- タッピングの開始: 手の側面をタッピングしながら、セットアップフレーズを3回繰り返します。
- ポイントのタッピング: 頭頂、眉の内側、目の外側、目の下、鼻の下、あごの下、鎖骨、脇の下の順にタッピングします。各ポイントで「この記憶」などの短いフレーズを繰り返します。
- 深呼吸: タッピングサイクルの後、深呼吸をします。
- 再評価: 問題の強度を再度0〜10で評価します。
- 繰り返し: 強度が十分に下がるまで、プロセスを繰り返します。
注意点として、深刻なトラウマや複雑なPTSDの場合は、必ず専門家の指導の下で行うようにしましょう。
EFTの利点と制限
利点:
- 非侵襲的で副作用が少ない
- 自己実践が可能
- 短期間で効果が現れることが多い
- 薬物療法と併用可能
- コスト効率が高い
制限:
- すべての人に同じように効果があるわけではない
- 科学的なメカニズムがまだ完全には解明されていない
- 重度のトラウマケースでは専門家の指導が必要
- 一部の人々にとっては「非科学的」に感じられる可能性がある
EFTの将来性
EFTは比較的新しい治療法ですが、その効果と安全性から、今後さらに普及していく可能性があります。以下のような展開が期待されています:
- オンライン・遠隔治療への適用: EFTはオンラインや遠隔医療にも適応可能であることが示されています[1]。
- 予防的アプローチ: PTSDの予防や回復力の向上にも活用できる可能性があります[1]。
- 統合的アプローチ: 従来の治療法との組み合わせによる相乗効果が期待されています[1][3]。
- さらなる研究の進展: メカニズムの解明や長期的な効果に関する研究が進むことで、より効果的な適用方法が開発される可能性があります。
- 医療システムへの統合: エビデンスの蓄積により、公的医療システムに組み込まれる可能性も考えられます。
まとめ
EFTは、PTSDの治療において有望なアプローチであることが科学的に示されています。短期間で効果が現れ、副作用が少なく、自己実践も可能という特徴は、多くのPTSD患者にとって魅力的な選択肢となるでしょう。
しかし、EFTはあくまでも治療の選択肢の一つであり、すべての人に適しているわけではありません。重度のPTSDや複雑なトラウマを抱える場合は、必ず専門家の指導を受けるようにしましょう。
EFTは、従来の治療法を補完し、より包括的なPTSD治療アプローチの一部となる可能性を秘めています。今後の研究の進展により、さらに効果的な適用方法が開発されることが期待されます。
PTSDに苦しむ方々にとって、EFTが心の傷を癒す新たな光となることを願っています。
参考文献
- https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6316206/
- https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6381429/
- https://www.frontiersin.org/journals/psychology/articles/10.3389/fpsyg.2023.1195286/full
- https://www.forbes.com/health/mind/emotion-focused-therapy/
- https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S1550830716301604
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