EMDRとエンプティチェア技法:トラウマ治療における2つの強力なアプローチの統合

EMDR
2024.08.09
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EMDRとエンプティチェアはトラウマをリリースするための強力なツールです。どちらもトラウマ解除に定評がありますが、それぞれ役割が違います。私も両方とも試すことで、片方だけでは取りきれなかったところまで取れるようになりました。特にトラウマにお悩みの方はぜひ最後までお読みくださいね。

はじめに

トラウマ治療の分野では、さまざまな心理療法アプローチが開発され、効果を上げてきました。その中でも特に注目を集めているのが、眼球運動による脱感作と再処理法(EMDR)とゲシュタルト療法のエンプティチェア技法です。この2つのアプローチは、それぞれ独自の強みを持ちながらも、組み合わせることでさらに効果的なトラウマ治療を可能にする可能性があります。

本記事では、EMDRとエンプティチェア技法の基本的な概念と手法を紹介し、これらを統合することの利点について詳しく解説します。また、実際の臨床現場でどのように活用できるかについても具体的に説明していきます。

EMDRの基本

EMDRとは

EMDRは、1987年にフランシーン・シャピロ博士によって開発された心理療法の一種です。当初は**PTSD(心的外傷後ストレス障害)**の治療法として注目されましたが、現在では様々な心理的問題に対して効果があることが分かっています[1]。

EMDRの基本的な考え方は、トラウマ体験が適切に処理されずに脳内に保存されることで、様々な症状が引き起こされるというものです。EMDRは、両側性の刺激（主に眼球運動）を用いながら、トラウマ記憶を再処理することで、症状の軽減を図ります。

EMDRの8段階プロトコル

EMDRは通常、以下の8段階のプロトコルに従って実施されます:

  1. クライアントの病歴聴取と治療計画の立案
  2. クライアントの準備
  3. アセスメント(ターゲットとなる記憶の特定)
  4. 脱感作
  5. インストール(ポジティブな認知の強化)
  6. ボディスキャン
  7. クロージャー
  8. 再評価

この構造化されたアプローチにより、クライアントは安全な環境でトラウマ記憶に向き合い、それを再処理することができます[1]。

エンプティチェア技法の基本

エンプティチェア技法とは

エンプティチェア技法は、ゲシュタルト療法の創始者であるフリッツ・パールズによって開発された心理療法の技法です。この技法では、クライアントが空の椅子に向かって話しかけることで、内的な葛藤や未解決の問題に取り組みます[2]。

エンプティチェア技法の目的は、クライアントが抑圧された感情や思考を表現し、自己理解を深めることです。また、この技法は「未完の課題」を解決し、現在の人間関係や心理的健康に影響を与えている過去の出来事を処理するのに役立ちます。

エンプティチェア技法の実施手順

エンプティチェア技法は、通常以下のような手順で実施されます:

  1. セッティング: クライアントの前に空の椅子を置きます。
  2. イメージ化: クライアントに、椅子に誰か(または何か)を想像してもらいます。
  3. 対話: クライアントは想像した相手と対話を始めます。
  4. 役割交代: 必要に応じて、クライアントは椅子を交代し、相手の立場になって応答します。
  5. 探索: セラピストは適切な質問やガイダンスを提供し、クライアントの気づきを促します。
  6. 統合: セッション終了時に、得られた洞察や感情を統合します[2]。

EMDRとエンプティチェア技法の統合

統合の利点

EMDRとエンプティチェア技法を統合することで、以下のような利点が期待できます:

  1. より深い感情処理: エンプティチェア技法で引き出された感情をEMDRで処理することで、より効果的な感情の解放と再処理が可能になります。
  2. 認知の再構築: エンプティチェアでの対話を通じて得られた新しい視点や洞察を、EMDRのインストール段階で強化することができます。
  3. 身体感覚へのアプローチ: 両技法とも身体感覚に注目するため、トラウマの身体的側面にも効果的にアプローチできます。
  4. 柔軟性の向上: 2つの技法を組み合わせることで、クライアントのニーズに合わせてより柔軟な治療が可能になります[3]。

統合アプローチの実践例

以下に、EMDRとエンプティチェア技法を統合したセッションの流れの例を示します:

  1. 準備段階:
    • クライアントの病歴を聴取し、治療目標を設定します。
    • EMDRとエンプティチェア技法について説明し、クライアントの同意を得ます。
  2. エンプティチェアワーク:
    • クライアントに空の椅子を用意し、トラウマに関連する人物や状況をイメージしてもらいます。
    • クライアントがその人物や状況と対話を始めます。
    • セラピストは適切なガイダンスを提供し、感情や認知の表出を促します。
  3. EMDRへの移行:
    • エンプティチェアワークで浮かび上がった最も強い感情や認知を特定します。
    • その感情や認知をターゲットとして、EMDRの標準プロトコルを開始します。
  4. 脱感作とインストール:
    • 両側性刺激を用いながら、ターゲットとなる記憶や感情を処理します。
    • 新しい適応的な認知をインストールし、強化します。
  5. ボディスキャン:
    • 身体全体をスキャンし、残存する不快感がないか確認します。
  6. 統合と振り返り:
    • セッションで得られた洞察や変化について話し合います。
    • 必要に応じて、再度エンプティチェアワークを行い、変化を確認します。
  7. クロージャーと次回の計画:
    • セッションを締めくくり、次回の計画を立てます[3][4]。

臨床事例

以下に、EMDRとエンプティチェア技法を統合したアプローチを用いた臨床事例を紹介します。

事例: 父親との関係に悩む35歳の女性

アキコさん(仮名)は、幼少期から厳格な父親との関係に悩んでいました。父親からの批判や否定的な言動により、自尊心の低下や対人関係の問題を抱えていました。

  1. 準備段階:
    • アキコさんの生育歴や現在の症状について詳しく聴取しました。
    • EMDRとエンプティチェア技法について説明し、統合アプローチを用いることに同意を得ました。
  2. エンプティチェアワーク:
    • アキコさんに空の椅子に父親をイメージしてもらいました。
    • アキコさんは父親に対する怒りや悲しみを表現し始めました。
    • セラピストは適切な質問を投げかけ、アキコさんの感情表現を促しました。
  3. EMDRへの移行:
    • エンプティチェアワークで浮かび上がった「私は価値のない人間だ」という否定的な認知をターゲットとしました。
    • この認知に関連する最も強い記憶(父親に厳しく叱責された場面)を特定しました。
  4. 脱感作とインストール:
    • 両側性刺激を用いながら、ターゲットとなる記憶を処理しました。
    • 処理が進むにつれ、アキコさんは父親の行動の背景にある不安や愛情を理解し始めました。
    • 「私には価値がある」という新しい肯定的な認知をインストールしました。
  5. ボディスキャン:
    • 身体全体をスキャンし、残存する不快感がないことを確認しました。
  6. 統合と振り返り:
    • セッションで得られた新しい理解や感情の変化について話し合いました。
    • 再度エンプティチェアワークを行い、父親に対する新しい感情や理解を表現しました。
  7. クロージャーと次回の計画:
    • セッションを振り返り、アキコさんの変化を確認しました。
    • 次回のセッションでは、現在の人間関係にどのような影響があるかを探ることを計画しました。

この事例では、エンプティチェア技法を通じてアキコさんの抑圧された感情を引き出し、EMDRを用いてそれらの感情や記憶を再処理することができました。その結果、父親との関係性に対する新しい理解が生まれ、自尊心の回復につながりました[4]。

EMDRとエンプティチェア技法の統合における注意点

EMDRとエンプティチェア技法を統合する際には、以下の点に注意する必要があります:

  1. クライアントの準備状態の評価: 両技法とも強力な感情を引き出す可能性があるため、クライアントが十分に安定しているか、適切な対処スキルを持っているかを慎重に評価する必要があります。
  2. セッションの構造化: 2つの技法をどのように組み合わせるか、事前に明確な計画を立てることが重要です。クライアントの状態や反応に応じて柔軟に調整できるよう準備しておきましょう。
  3. 時間管理: エンプティチェアワークとEMDRの両方を1つのセッションで行う場合、適切な時間配分が必要です。クライアントが十分に処理し、統合する時間を確保することが重要です。
  4. 技法の選択: すべてのケースで両技法を使用する必要はありません。クライアントのニーズや問題の性質に応じて、適切な技法を選択することが大切です。
  5. セラピストのトレーニング: 両技法を適切に統合するためには、EMDRとゲシュタルト療法の両方について十分なトレーニングと経験が必要です[3][4]。

結論

EMDRとエンプティチェア技法の統合は、トラウマ治療において非常に有効なアプローチとなる可能性があります。 エンプティチェア技法を通じて抑圧された感情や認知を引き出し、EMDRを用いてそれらを効果的に再処理することで、クライアントの癒しと成長を促進することができます。

この統合アプローチは、単に2つの技法を機械的に組み合わせるのではなく、クライアントの個別のニーズに応じて柔軟に適用することが重要です。セラピストは両技法に精通し、クライアントの安全を最優先しながら、創造的かつ効果的な治療を提供することが求められます。

今後の研究や臨床実践を通じて、EMDRとエンプティチェア技法の統合アプローチがさらに洗練され、多くのクライアントの心理的健康の回復に貢献することが期待されます。

参考文献

  1. Positive Psychology. (n.d.). Empty Chair Technique. Retrieved from https://positivepsychology.com/empty-chair-technique/
  2. Sunflower Counseling. (n.d.). Gestalt Therapy and the Empty Chair Technique: Musings in Missoula. Retrieved from https://sunflowercounseling.com/gestalt-therapy-and-the-empty-chair-technique-musings-in-missoula/
  3. The Mental Health Collective. (n.d.). What Is EMDR? Dr. Huang. Retrieved from https://themhcollective.com/what-is-emdr-dr-huang/
  4. Rula. (n.d.). Empty Chair Technique. Retrieved from https://www.rula.com/blog/empty-chair-technique/
  5. Trauma Specialists Training. (n.d.). Retrieved from https://www.traumaspecialiststraining.com/blog
  6. YouTube. (n.d.). Retrieved from https://www.youtube.com/watch?v=R26lpEKOdMc
  7. Doctor Tobin. (n.d.). The Integration of Relational Gestalt Therapy and EMDR. Retrieved from https://doctortobin.com/the-integration-of-relational-gestalt-therapy-and-emdr

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