EMDRとストレス

EMDR
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ストレスは現代社会において避けられない問題となっています。日々の生活や仕事、人間関係など、様々な要因がストレスの原因となり得ます。そんな中で、EMDRという比較的新しい心理療法が注目を集めています。EMDRはストレス関連の問題に効果があるとされていますが、具体的にどのような治療法なのでしょうか。このブログ記事では、EMDRとストレスの関係について詳しく見ていきます。

EMDRとは

EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing)は、1989年にフランシーン・シャピロ博士によって開発された心理療法です[1]。EMDRは当初、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の治療法として開発されましたが、現在では様々なストレス関連の問題に適用されています。

EMDRの特徴は、患者の急速で律動的な眼球運動を利用することです。従来の心理療法のように長時間の会話や薬物療法に頼るのではなく、EMDRセラピストの指示に従って目を動かすことで、ストレスフルな記憶の影響力を弱めることができるとされています[5]。

EMDRの8つのフェーズ

EMDRは通常、以下の8つのフェーズで構成されています[5]:

  1. 情報収集と共有
  2. 準備
  3. アセスメント
  4. 脱感作
  5. インストール
  6. ボディスキャン
  7. クロージャー
  8. 再評価

これらのフェーズは、患者の状態治療の進行状況に応じて、柔軟に適用されます。

EMDRのメカニズム

EMDRがどのようにして効果を発揮するのかについては、いくつかの理論が提唱されています。

適応的情報処理モデル (AIP)

適応的情報処理モデル (AIP): EMDRの創始者であるシャピロ博士が提唱したこのモデルでは、通常の記憶と外傷的記憶は脳内で異なる方法で保存されると考えられています[2]。EMDRは、この不適切に保存された外傷的記憶を適応的に再処理することで、症状の改善を図ります。

ワーキングメモリー理論

ワーキングメモリー理論眼球運動ワーキングメモリーに負荷をかけることで、不快な記憶の鮮明さや感情的強度を低下させるという考え方です[4]。

REM睡眠との類似性

REM睡眠との類似性: EMDRの眼球運動がREM睡眠中の眼球運動と類似していることから、記憶の統合や処理に関与している可能性が指摘されています[6]。

EMDRのストレス軽減効果

多くの研究がEMDRのストレス軽減効果を報告しています。特にPTSDの治療において、EMDRは高い効果を示しています。

PTSDに対する効果

PTSDに対する効果: 30以上の無作為化比較試験 (RCT) がEMDRのPTSDに対する有効性を示しています[4]。多くの国際的な臨床ガイドラインでは、EMDRがPTSDの第一選択治療法の1つとして推奨されています。

うつ症状の改善

うつ症状の改善: PTSDだけでなく、うつ症状の改善にもEMDRが効果的であることが報告されています[3]。

医療従事者のストレス軽減

医療従事者のストレス軽減救急医療技術者を対象とした研究では、EMDRがストレスの強度を有意に低下させることが示されました[6]。

その他のストレス関連問題

その他のストレス関連問題パニック障害摂食障害依存症不安症など、様々なストレス関連の問題にEMDRが適用される可能性が示唆されています[5]。

EMDRの利点

EMDRには以下のような利点があります:

  1. 短期間での効果: 多くの場合、3〜6セッションで効果が現れます。複雑なトラウマの場合でも、8〜12セッション程度で改善が見られることが多いです[5]。
  2. 薬物療法への依存度低下: EMDRは非薬物療法であるため、薬物療法への依存を減らすことができます。
  3. 長期的な効果: EMDRの効果は長期的に持続することが報告されています[4]。
  4. 文化や人種を超えた適用可能性: EMDRは言語に大きく依存しないため、様々な文化や背景を持つ人々に適用できます[4]。

EMDRの課題と注意点

EMDRは多くの利点を持つ一方で、いくつかの課題や注意点も存在します:

専門的なトレーニングの必要性

EMDRを適切に実施するには、専門的なトレーニングを受けたセラピストが必要です

一時的な不快感

治療中に一時的にストレスフルな記憶が活性化されるため、不快感を感じる可能性があります

すべての人に適しているわけではない

特に重度の解離症状がある場合など、EMDRが適さないケースもあります

研究の継続的な必要性

EMDRの効果メカニズムについては、さらなる研究が必要とされています

EMDRセッションの流れ

典型的なEMDRセッションは以下のような流れで進行します[5]:

セッションの準備

セラピストは患者に対して、EMDRの手順や目的について説明します

ストレスフルな記憶の特定

患者は、処理したいストレスフルな記憶や出来事を特定します

眼球運動の開始

セラピストは指やライト、音などを使って、患者の眼球運動を誘導します

記憶の想起

患者はストレスフルな記憶を思い出しながら、眼球運動を続けます

感情や身体感覚の観察

セラピストは定期的に、患者の感情や身体感覚の変化を確認します

ポジティブな認知の強化

ネガティブな記憶が処理されたら、ポジティブな認知を強化する作業を行います

ボディスキャン

身体に残っている不快感がないか確認します

セッションの終了

患者の状態を確認し、必要に応じてリラクゼーション技法を行います

EMDRとその他の心理療法の比較

EMDRは他の心理療法と比較して、どのような特徴があるのでしょうか。

認知行動療法 (CBT) との比較

CBTとEMDRは、どちらもPTSDの治療に効果的であることが示されています。しかし、EMDRの方がより短期間で効果が現れる傾向があります[4]。

曝露療法との比較

EMDRは曝露療法と同様に、トラウマ記憶に向き合うことを含みますが、EMDRではより短時間の曝露で済むことが多いです

リラクゼーション療法との比較

EMDRはリラクセーション療法よりも、PTSDの症状改善に効果的であることが示されています[3]。

EMDRの適用範囲

不安障害

パニック障害や社交不安障害などの不安障害にEMDRが効果的であることが報告されています[5]。

うつ病

うつ症状の改善にEMDRが有効であることが示されています[3]。

慢性疼痛

慢性的な痛みの管理にEMDRが役立つ可能性が示唆されています[3]。

依存症

アルコールや薬物依存の治療にEMDRを応用する研究も行われています[5]。

複雑性PTSD

長期的または反復的なトラウマによって引き起こされる複雑性PTSDにも、EMDRが効果を示しています[4]。

EMDRの将来展望

神経科学的研究

脳機能イメージングなどの技術を用いて、EMDRの作用メカニズムをより詳細に解明する研究が進められています

オンラインEMDR

COVID-19パンデミックを契機に、オンラインでのEMDR実施に関する研究が増えています

予防的使用

トラウマ直後にEMDRを実施することで、PTSDの発症を予防できる可能性が検討されています

他の治療法との併用

薬物療法や他の心理療法とEMDRを組み合わせることで、より効果的な治療法を開発する試みが行われています

結論

EMDRは、ストレスやトラウマに関連する様々な問題に対して効果的な治療法であることが、多くの研究によって示されています。特にPTSDの治療において、EMDRは第一選択肢の1つとして確立されつつあります

しかし、EMDRはあくまでも専門的なトレーニングを受けたセラピストによって実施されるべき治療法です。ストレスや心の問題で悩んでいる場合は、まずは専門家に相談することをお勧めします。

EMDRは比較的新しい治療法であり、そのメカニズムや適用範囲についてはまだ研究の余地があります。今後の研究によって、EMDRの可能性がさらに広がることが期待されます。ストレス社会と呼ばれる現代において、EMDRは多くの人々の心の健康を支える重要なツールとなる可能性を秘めています

参考文献

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