複雑性PTSDと内的家族システム療法:理解と癒しへの道のり

内的家族システム療法
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複雑性トラウマを本当に深いところから解決する方法として最も優れているのは内的家族システム療法だと個人的には確信しています。EMDRなどでも取りきれない深い部分に前アプローチできる素晴らしい方法論だと思います。過去のトラウマに悩まれている方はぜひ最後までお読みくださいね。

はじめに

複雑性PTSD(C-PTSD)は、長期にわたる反復的なトラウマ体験によって引き起こされる深刻な精神的健康問題です。一方、内的家族システム(IFS)療法は、このような複雑なトラウマに対処するための革新的なアプローチを提供します。この記事では、C-PTSDの本質と、IFS療法がどのようにして癒しと回復の道を開くことができるかを探ります。

複雑性PTSDとは何か?

複雑性PTSD(C-PTSD)は、単発の traumatic event ではなく、長期間にわたる反復的なトラウマ体験によって引き起こされる精神的健康問題です。C-PTSDは通常のPTSDよりも症状が複雑で重度であることが特徴です[3]。

C-PTSDの主な原因には以下のようなものがあります:

  • 幼少期の虐待や neglect
  • 家庭内暴力
  • 人身売買や性的搾取
  • ジェノサイドや戦争体験
  • 拷問
  • 長期間の監禁

これらの体験は、被害者の安全感、自尊心、対人関係能力に深刻な影響を与えます

C-PTSDの症状

C-PTSDの症状は多岐にわたり、以下のようなものが含まれます:

  • トラウマの再体験(フラッシュバックや悪夢など)
  • トラウマの記憶を思い出させるものの回避
  • 過覚醒状態(常に警戒している感覚)
  • 感情調整の困難
  • 対人関係の問題
  • 自己認識の歪み(強い罪悪感や恥の感覚など)
  • 解離症状
  • 身体化症状(慢性疼痛、慢性疲労、過敏性腸症候群など)
  • 自傷行為や自殺念慮

これらの症状は、日常生活や対人関係に深刻な影響を及ぼす可能性があります[3]。

内的家族システム(IFS)療法とは?

内的家族システム(IFS)療法は、1980年代にRichard C. Schwartzによって開発された統合的な心理療法アプローチです[6]。IFS療法は、私たちの心の中には複数の「部分」(サブパーソナリティ)が存在し、それらが内的な家族システムを形成しているという考えに基づいています。

IFS療法の主な特徴:

  1. 心を複数の部分から成るシステムとして捉える
  2. すべての部分には肯定的な意図があると考える
  3. 「セルフ」という中核的な自己の存在を重視する
  4. トラウマや苦痛を抱えた部分を癒すことで全体的な調和を目指す

IFS療法では、クライアントが自分の内なる部分と対話し、理解を深めていくプロセスを通じて、心の調和と癒しを促進します

C-PTSDに対するIFS療法のアプローチ

IFS療法は、C-PTSDのような複雑なトラウマに対して特に効果的であると考えられています。以下に、IFS療法がC-PTSDにどのようにアプローチするかを説明します。

1. 安全な内的空間の創造

C-PTSDを抱える人々にとって、安全感の欠如は大きな問題です。IFS療法では、まず「セルフ」と呼ばれる中核的な自己との接触を通じて、安全で落ち着いた内的空間を作り出すことから始めます。この「セルフ」は、**compassion、curiosity、calmness、clarity、courage、confidence、creativityといった特質(8つのC)**を持っています。

セラピストは、クライアントがこの「セルフ」の状態にアクセスできるよう導きます。これにより、クライアントは自分の内なる部分を探索する際の安全基地を得ることができます

2. 防衛的な部分との対話

C-PTSDを抱える人々の中には、しばしば強力な防衛メカニズムが働いています。IFS療法では、これらの防衛的な部分を「プロテクター」と呼び、その役割を尊重します。

例えば、感情を遮断する部分や、他者との親密な関係を避ける部分などが存在するかもしれません。IFS療法では、これらの部分が担っている保護的な役割を認識し、感謝の念を示します。そして、より適応的な方法で保護する方法を一緒に探っていきます。

3. トラウマを抱えた部分の癒し

防衛的な部分との信頼関係が築けたら、次にトラウマを直接体験した「エグザイル」と呼ばれる部分にアプローチします。これらの部分は、しばしば凍結した過去の瞬間に閉じ込められています。

IFS療法では、「セルフ」の特質を用いて、これらのトラウマを抱えた部分に寄り添い、その経験を傾聴します。そして、新しい情報や理解、compassionを提供することで、これらの部分が過去から解放され、現在に統合されるのを助けます

4. 解離への対処

C-PTSDでは解離症状がしばしば見られますが、IFS療法はこの問題に対しても効果的なアプローチを提供します。IFSの視点では、解離は極端な形の内的分離状態と捉えられます。

therapy sessionの中で、クライアントは徐々に解離した部分とコンタクトを取り、対話を始めることができます。「セルフ」の存在が、これらの分離した部分を安全に探索し、再統合するための基盤となります

5. 自己認識の再構築

C-PTSDを抱える人々は、しばしば歪んだ自己認識(例:「自分には価値がない」「世界は危険だ」など)に苦しんでいます。IFS療法は、これらの信念を持つ部分と直接対話することで、新しい視点や理解をもたらします

「セルフ」の視点から、これらの部分が形成された背景を理解し、compassionを持って接することで、より健康的で現実的な自己認識へと変化していくことができます

6. 対人関係スキルの向上

C-PTSDは対人関係に大きな影響を与えますが、IFS療法はこの面でも効果を発揮します。内的な部分との関係性を改善することは、外的な関係性の改善にもつながります。

例えば、他者を信頼することを恐れる部分と対話し、その懸念を理解することで、現実の人間関係でより健康的な境界線を設定したり、適切なリスクを取ったりすることができるようになります

7. 感情調整能力の向上

C-PTSDでは感情調整の困難がよく見られますが、IFS療法はこの問題にも取り組みます。感情を抑圧したり、逆に圧倒されたりする部分を特定し、それらと対話することで、より柔軟な感情調整が可能になります。

「セルフ」の特質である落ち着きや明晰さを活用することで、クライアントは徐々に感情の波に飲み込まれることなく、それらを観察し、適切に表現する能力を身につけていきます

8. 身体化症状への対応

C-PTSDでは、しばしば説明のつかない身体症状が現れます。IFS療法では、これらの症状を持つ部分と直接対話することができます

例えば、慢性的な頭痛を抱える部分に、その痛みが何を伝えようとしているのかを尋ねることができます。このプロセスを通じて、身体症状の根底にある心理的な問題に光を当て、統合的な癒しを促進することができます

9. 自傷行為や依存行動への対処

自傷行為や物質乱用などの問題行動は、C-PTSDを抱える人々にしばしば見られます。IFS療法では、これらの行動を担う部分と直接対話し、その意図を理解します

多くの場合、これらの行動は内的な痛みを和らげようとする試みです。IFS療法を通じて、これらの部分により健康的な対処方法を見出すよう導くことができます

10. レジリエンスの構築

最終的に、IFS療法はC-PTSDを抱える人々のレジリエンス(回復力)を高めることを目指します。内的システムの調和が取れ、「セルフ」がリーダーシップを発揮できるようになると、ストレスや困難に対してより柔軟に対応できるようになります。

これは、単に症状を管理するだけでなく、真の成長と変容をもたらす可能性を秘めています

IFS療法の実践例

ここで、C-PTSDに対するIFS療法の実践例を紹介します。これは架空のケースですが、典型的なセッションの流れを示しています

ケース: 35歳の女性、サラ。幼少期に継続的な身体的・情緒的虐待を受けた経験があり、C-PTSDと診断されています。対人関係の困難、慢性的な不安、時折の解離症状に悩んでいます。

セッション1: 内的システムの探索

セラピスト: 「サラさん、まずは目を閉じて、深呼吸をしてみましょう。そして、あなたの内側に注意を向けてください。どんな感覚や感情に気づきますか?」

サラ: 「胸が締め付けられるような感じがします。そして…何か怖がっている部分があるように感じます。」

セラピスト: 「その怖がっている部分に、優しく注意を向けてみましょう。その部分がどんな姿をしているか、イメージできますか?」

サラ: 「小さな女の子のように見えます。暗い部屋の隅で震えています。」

セラピスト: 「その小さな女の子に、あなたが彼女のそばにいることを伝えてみてください。そして、彼女が何を恐れているのか、優しく尋ねてみましょう。」

サラ: (しばらく沈黙の後)「彼女は…誰かに傷つけられるのを怖がっています。」

セラピスト: 「なるほど。その恐れはとても理解できますね。彼女にあなたがそばにいて、守ってあげたいと思っていることを伝えてみましょう。」

このようなプロセスを通じて、サラは自分の内なる傷ついた部分と接触し、それを理解し始めます

セッション2: プロテクターとの対話

次のセッションでは、サラの防衛的な部分(プロテクター)との対話に焦点を当てます。

セラピスト: 「サラさん、前回お会いした小さな女の子を守っている部分はありますか?」

サラ: 「はい…厳しい声で『誰も信じるな』と言い続ける部分がいます。」

セラピスト: 「その部分に注意を向けてみましょう。その部分がどんな姿をしているか、見えますか?」

サラ: 「高い壁のように見えます。冷たくて、堅い感じがします。」

セラピスト: 「その壁に、あなたが話を聞きたいと思っていることを伝えてみましょう。なぜそこにいるのか、その役割は何なのか、尋ねてみてください。」

サラ: (しばらく沈黙)「壁は…私を守るためにいるそうです。他の人に近づかれると傷つくから、と言っています。」

セラピスト: 「なるほど。その壁は、あなたを守るためにとても重要な役割を果たしてきたのですね。その努力に感謝の気持ちを伝えてみましょう。」

このプロセスを通じて、サラは自分の防衛的な部分の意図を理解し、それと協力関係を築き始めます

セッション3: トラウマの癒し

数回のセッションを経て、サラは自分の内的システムとより良い関係を築いていきます。そして、トラウマを直接扱う準備が整ってきます

セラピスト: 「サラさん、今日は小さな女の子が体験したことに、優しく寄り添ってみましょう。準備はできていますか?」

サラ: 「はい…少し怖いですが、やってみます。」

セラピスト: 「素晴らしいです。まず、あなたの中の『セルフ』の部分を呼び起こしましょう。落ち着いて、思いやりに満ちた状態です。その状態から、小さな女の子に近づいてみてください。」

サラ: (深呼吸をして)「はい、できました。小さな女の子が見えます。」

セラピスト: 「その小さな女の子に、あなたがそばにいること、そして彼女の話を聞く準備ができていることを伝えてください。」

サラ: (涙ぐみながら)「彼女は…とても怖がっています。父親が怒鳴っている場面が見えます。」

セラピスト: 「その場面を、あなたの『セルフ』の部分から見守ってください。小さな女の子に何が必要か、尋ねてみましょう。」

サラ: 「彼女は…抱きしめてほしいと言っています。そして、これが彼女の責任ではないと伝えてほしいと。」

セラピスト: 「では、そうしてあげましょう。あなたの『セルフ』の部分から、その小さな女の子を抱きしめ、起こったことは彼女の責任ではないと伝えてください。」

このプロセスを通じて、サラは過去のトラウマ体験を再体験することなく、安全な方法でそれに向き合い、新しい理解と癒しをもたらすことができます

IFS療法の効果と利点

IFS療法は、C-PTSDを含む複雑なトラウマの治療に多くの利点をもたらします:

1. 安全性

トラウマを直接的に再体験することなく、安全に過去の出来事に向き合うことができます。

2. 自己理解の深化

内的な部分との対話を通じて、自分自身をより深く理解することができます。

3. 自己受容の促進

すべての部分に肯定的な意図があるという前提は、自己批判を減らし、自己受容を促進します。

4. 柔軟性の向上

内的システムの調和が取れることで、状況に応じてより柔軟に対応できるようになります。

5. 持続的な変化

単に症状を管理するだけでなく、根本的な内的変容をもたらすことができます。

6. エンパワメント

クライアント自身が自分の内的システムを理解し、調整する力を身につけることができます。

7. 身体化症状の改善

心理的問題と身体症状の関連性を理解し、統合的な癒しを促進します。

8. 対人関係の改善

内的な部分との関係性の改善が、外的な関係性の改善にもつながります。

IFS療法の課題と限界

IFS療法は多くの利点を持つ一方で、いくつかの課題や限界も存在します:

1. 時間と労力

内的システムの探索と調和には時間がかかる場合があります。

2. 想像力の必要性

イメージを用いるため、想像力を活用することが難しい人には向かない場合があります。

3. 複雑性

内的システムの概念が複雑で、理解が難しい場合があります。

4. 文化的適合性

西洋的な自己概念に基づいているため、異なる文化背景を持つ人々には馴染みにくい可能性があります。

5. エビデンスの蓄積

他の確立された療法と比べ、まだ研究の蓄積が十分ではありません。

6. 専門家の不足

適切なトレーニングを受けたIFSセラピストが不足している地域があります。

C-PTSDに対するIFS療法の将来性

 IFS療法はC-PTSDの治療において大きな可能性を秘めています。以下に、今後の展望をいくつか挙げます:

1. 研究の進展

より多くの臨床研究が行われることで、IFS療法の効果がさらに実証されていくことが期待されます。

2. 他の療法との統合

認知行動療法(CBT)やEMDRなど、他の確立された療法とIFS療法を組み合わせることで、より効果的な治療法が開発される可能性があります。

3. 文化的適応

さまざまな文化的背景に適応したIFS療法のバリエーションが開発されることで、より多くの人々に適用できるようになるでしょう。

4. テクノロジーの活用

バーチャルリアリティ(VR)やアプリケーションなどのテクノロジーを活用することで、IFS療法の実践がより身近になる可能性があります。

5. 予防的アプローチ

IFS療法の原理を応用した予防的なプログラムが開発され、C-PTSDの発症リスクを低減することができるかもしれません。

結論: 内なる調和への道

C-PTSDは複雑で深刻な精神的健康問題ですが、IFS療法はその治療に新たな希望をもたらします。内的な部分との対話と調和を通じて、トラウマを抱えた人々は自己理解を深め、より適応的な生活を送るための道具を手に入れることができます。

IFS療法は、単に症状を管理するだけでなく、人間の内的世界の複雑さを尊重し、真の変容と成長を促進します。 C-PTSDを抱える人々にとって、それは内なる平和と調和への道を開く可能性を秘めています。

もちろん、IFS療法が万能薬というわけではありません。個々の状況や好みに応じて、他の治療法と組み合わせたり、別のアプローチを選択したりすることも重要です。 専門家との相談のもと、自分に最適な治療法を見つけることが大切です。

最後に、C-PTSDからの回復は決して簡単な道のりではありませんが、希望は常にあります。IFS療法は、その回復の旅路において、力強い同伴者となる可能性を秘めています。 内なる調和を取り戻すことで、外の世界とも調和して生きていくための基盤を築くことができるでしょう。

治療を受けることを検討している方、あるいは既に治療を受けている方にとって、この記事が何らかの示唆や励みとなれば幸いです。あなたの中にある全ての部分が、癒しと成長に向かって協力し合えることを願っています。

参考文献

Internal Family Systems Institute. (n.d.). What is Internal Family Systems? Retrieved from https://ifs-institute.com

内的家族システム(IFS) – Actinostomal21. (n.d.). Retrieved from https://actinostomal21.rssing.com/chan-11321457/all_p34.html

Healthdirect. (n.d.). Complex post-traumatic stress disorder (PTSD). Retrieved from https://www.healthdirect.gov.au/complex-ptsd

GoodTherapy. (n.d.). Internal Family Systems (IFS). Retrieved from https://www.goodtherapy.org/learn-about-therapy/types/internal-family-systems-therapy

Aha Media Group. (n.d.). Mental Health Content: 5 Tips to Engage Your Audience. Retrieved from https://ahamediagroup.com/blog/writing-about-mental-health-5-tips-engage-audience/

Wikipedia. (n.d.). Internal Family Systems Model. Retrieved from https://en.wikipedia.org/wiki/Internal_Family_Systems_Model

Tebra. (n.d.). 10 mental health blog topics to include on your practice website. Retrieved from https://www.tebra.com/blog/10-mental-health-blog-topics-to-include-on-your-practice-website/

 

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