内的家族システムは全般性不安障害に効果的か?

内的家族システム療法
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今回は内的家族システム(IFS)は全般性不安障害(GAD)についてまとめました。IFSのいいところは不安の根源にまでアプローチできること。不安という感情は時として表面的です。深く掘り下げて行くと、そこには「悲しみ」「空虚感」「自己嫌悪」といった感情が隠れているかもしれません。何が根本的な原因かは人によっても違いますが、根っこにアプローチすることが長期的に見て大切です。

はじめに

内的家族システム(IFS)療法は全般性不安障害(GAD)に効果的な治療法として注目を集めています。この革新的なアプローチは、心の内部にある様々な「部分(パーツ)」に焦点を当て、不安の根源に取り組むことで、持続的な変化をもたらす可能性があります。このブログ記事では、IFS療法がGADにどのように効果を発揮するのか、その仕組みと利点について詳しく見ていきましょう。

IFS療法とは

内的家族システム療法は、1980年代にリチャード・シュワルツ博士によって開発された比較的新しい心理療法のアプローチです[2]。当初は摂食障害の治療を目的として開発されましたが、その後、不安障害や鬱病、PTSDなど、幅広いメンタルヘルスの問題に適用されるようになりました。

IFS療法の基本的な考え方は、私たちの心の中には様々な「部分(パーツ)」が存在し、それぞれが独自の役割や機能を持っているというものです。 これらのパーツは、大きく分けて以下の3つのカテゴリーに分類されます:

  1. エグザイル(追放された部分):過去のトラウマや痛みを抱えた脆弱な部分
  2. マネージャー:エグザイルを保護し、システム全体をコントロールしようとする部分
  3. ファイアファイター:エグザイルの痛みが表面化しそうになった時に、即座に反応して抑え込もうとする部分

IFS療法では、これらのパーツを認識し、理解し、調和させることで、心の健康と全体的なウェルビーイングの改善を目指します。

IFS療法の不安への適用

全般性不安障害(GAD)は、過度の心配や不安が日常生活に支障をきたす慢性的な状態を指します。IFS療法は、この不安の根源にアプローチする独自の方法を提供します。

不安を生み出す内的システムの理解

IFS療法の観点から見ると、不安は心の中の特定のパーツの配置によって生み出されます[1]。 この「不安を生み出す内的システム」は、主に以下の要素で構成されています:

  1. 意識されていない恐怖:これらの恐怖は必ずしも現在の状況に基づいているわけではなく、過去のトラウマや経験に根ざしていることがあります。
  2. 明確さの欠如:不安を感じている人は、何を恐れているのか、その恐怖が現在に根ざしているのか過去に根ざしているのかを正確に把握できていないことが多いです。
  3. 不安発作:明確な理由がわからないまま、突然の不安の高まりを経験します。極端な場合、パニック発作につながることもあります。
  4. 低レベルの持続的な不安:明確な理由がないにもかかわらず、常に心配事や「もし〜だったら」という思考、反芻、些細な決断の困難さなどを経験します。

IFS療法は、これらの要素を個別に扱うのではなく、全体的なシステムとして理解し、アプローチします。

IFS療法の6つのF

IFS療法では、不安を生み出す内的システムに取り組むために、「6つのF」と呼ばれるプロセスを使用します[2]。 これらのステップは、クライアントが自身の内的パーツを識別し、理解し、最終的に癒すのに役立ちます:

  1. Find(見つける): 注意を向ける必要があるパーツを特定します。
  2. Focus(焦点を当てる): そのパーツに完全に注意を向けます。
  3. Flesh Out(具体化する): そのパーツの外見や感触を詳細に描写します。
  4. Feel Toward(感情を向ける): そのパーツに対して湧き上がる感情について話し合います。
  5. BeFriend(友好的になる): そのパーツについてより深く探求し、好奇心を持ってその存在を受け入れます。
  6. Fear(恐れ): そのパーツが何を恐れているのか、その機能が変化したら何が起こるかについて考えます。

これらのステップを通じて、クライアントは自身の不安を生み出すパーツとより深く関わり、理解を深めることができます。

IFS療法がGADに効果的である理由

IFS療法が全般性不安障害(GAD)の治療に効果的である理由はいくつかあります:

  1. 根本原因へのアプローチ: IFS療法は、表面的な症状だけでなく、不安の根本的な原因に取り組みます。これにより、より持続的な変化が可能になります[1]。
  2. 自己理解の促進: クライアントは自身の内的システムをより深く理解することで、不安の引き金や維持要因をより明確に認識できるようになります[2]。
  3. エンパワーメント: IFS療法は、クライアントが自身の内的プロセスに積極的に関与することを促します。これにより、自己効力感が高まり、不安に対処する能力が向上します[2]。
  4. 柔軟性: IFS療法は個々のクライアントのニーズに合わせて調整可能であり、GADの多様な症状や原因に対応できます[4]。
  5. トラウマへの対処: GADの背景にあるトラウマ体験に安全に取り組むことができます[2]。
  6. 全人的アプローチ: IFS療法は、心理的側面だけでなく、身体的、感情的、精神的側面も含めた全人的なアプローチを取ります[3]。

IFS療法の具体的な適用例

GADに対するIFS療法の適用を具体的に理解するために、架空の事例を見てみましょう[2]:

ジェーンは、仕事でプレゼンテーションをする度に不安を感じていました。以前から少し不安はありましたが、最近ではその症状が悪化し、仕事のパフォーマンスに影響を与えるようになっていました。

IFS療法士は、ジェーンに現在注意を向ける必要があるパーツについて尋ねました。ジェーンは、常に吐き気を感じており、特にプレゼンテーションの日にはひどくなると答えました。セラピストはジェーンに、この吐き気のパーツと対話するよう促しました。

ガイドされながら、ジェーンはこのパーツについて理解を深めていきました。 吐き気のパーツは、ジェーンがプレゼンテーションをすると何か恐ろしいことが起こるのではないかと恐れていることがわかりました。このパーツは、ジェーンを激しい吐き気で苦しめることで、プレゼンテーションをする可能性をなくし、ジェーンを守ろうとしていたのです。

セラピストの指導の下、ジェーンはこのエグザイルの重荷を取り除き、現在に引き戻すことができました。そして、吐き気のパーツにエグザイルを紹介しました。吐き気のパーツは、エグザイルが癒されたことを理解し、もはやジェーンがプレゼンテーションをする際にトリガーされることはないと認識しました。

この過程を経て、ジェーンの吐き気は大幅に軽減されました。彼女は引き続き、プレゼンテーションの考えによって活性化される他のパーツとも取り組みました。これらのパーツと友好的になり、癒していくにつれて、療法を受けるきっかけとなった不安は解消されていきました。

IFS療法の利点

IFS療法には、GADを含む様々な心理的問題に対して多くの利点があります[2][4]:

  1. 不安とうつの軽減: 研究によると、IFS療法は不安症状とうつ症状の両方を効果的に軽減することが示されています。
  2. レジリエンスの向上: クライアントは自身の内的システムをより良く理解し、管理することで、ストレスや困難に対するレジリエンスを高めることができます。
  3. 人間関係の改善: 自己理解が深まることで、他者との関係性も改善される傾向があります。
  4. 問題解決能力の向上: 内的なプロセスをより明確に理解することで、外的な問題に対しても効果的に対処できるようになります。
  5. PTSD症状の軽減: トラウマに関連する症状の軽減に効果があることが報告されています。
  6. 自己受容の促進: 自身の全てのパーツを理解し、受け入れることで、より深い自己受容が可能になります。
  7. 物質使用の管理: 依存症に関連する問題の管理にも効果があることが示されています。
  8. 感情理解の向上: 自身の感情をより深く理解し、効果的に管理する能力が向上します。
  9. 身体症状の改善: 研究によると、関節リウマチ患者の痛みとうつ症状の軽減にも効果があることが示されています。

IFS療法の実践

IFS療法を実践する際には、以下のような点に注意することが重要です:

  1. 専門家のガイダンス: IFS療法は複雑なプロセスを含むため、特に初めて取り組む場合は、訓練を受けた専門家のガイダンスを受けることが推奨されます[1]。
  2. 安全な環境の確保: トラウマや深い感情に触れる可能性があるため、安全で支持的な環境で行うことが重要です。
  3. 継続的な実践: IFS療法の効果を最大限に引き出すためには、継続的な実践が必要です。セッション間の自己観察や自己対話も重要な要素となります。
  4. 忍耐と自己compassion: 内的なプロセスの変化には時間がかかることがあります。自分自身に対して忍耐強く、思いやりを持って接することが大切です。
  5. 他の治療法との併用: IFS療法は他の治療アプローチと併用することも可能です。個々のニーズに応じて、最適な治療計画を立てることが重要です。

IFS療法の限界と注意点

IFS療法は多くの人にとって効果的ですが、全ての人に適しているわけではありません。 以下のような限界や注意点があります:

  1. 研究の不足: IFS療法は比較的新しいアプローチであり、その効果に関する大規模な研究はまだ限られています[2]。
  2. 複雑性: IFS療法の概念は一部の人にとっては複雑に感じられる可能性があり、理解や実践に時間がかかる場合があります。
  3. トラウマへの対処: 深いトラウマを扱う際には、適切な訓練を受けたセラピストの指導が不可欠です。
  4. 薬物療法との関係: 重度のGADの場合、IFS療法単独ではなく、薬物療法との併用が必要になる場合があります。
  5. 文化的な適合性: IFS療法の概念が全ての文化的背景に同様に適合するわけではない可能性があります。

結論

内的家族システム(IFS)療法は、全般性不安障害(GAD)に対する有望なアプローチです。 この療法は、不安の根本原因に取り組み、クライアントの自己理解とエンパワーメントを促進することで、持続的な変化をもたらす可能性があります。

IFS療法の独自のアプローチは、不安を単なる症状としてではなく、内的なシステムの一部として理解し、扱います。 これにより、クライアントは自身の不安の原因をより深く理解し、効果的に管理する方法を学ぶことができます。

参考文献

  1. How to heal anxiety with IFS (Internal Family Systems) Therapy. (n.d.). Retrieved from https://www.therapywithalessio.com/articles/how-to-heal-anxiety-with-ifs-internal-family-systems-therapy
  2. Internal Family Systems Therapy: How It Works & What to Expect. (n.d.). Retrieved from https://www.choosingtherapy.com/internal-family-systems-therapy/
  3. IFS for Anxiety & Trauma — Modalities – Integrative Psychotherapy. (n.d.). Retrieved from https://integrativepsych.co/modalities/internal-family-systems-new-york
  4. What to Know About Internal Family Systems (IFS) Therapy. (n.d.). Retrieved from https://www.verywellmind.com/what-is-ifs-therapy-internal-family-systems-therapy-5195336

 

 

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