世間や他人の目を気にしてしまいがちな日本人にとってひきこもりの問題は誰もが大なり小なり関係しています。
私も他人の目が気になる瞬間がありますが、内的家族システム療法のアイディアを自分に適用することで心が解放される感覚を得ることができました。
本格的に家から出られずにいる方はもちろん、小さな生きづらさやストレスを感じられている方にとっても役立つ内容となっておりますのでぜひ最後までお読み下さい。
はじめに
近年、日本社会で大きな問題となっているひきこもりと、心理療法の一つである内的家族システム(IFS)療法。一見すると関連性のないこの2つのテーマですが、実はIFS療法がひきこもりの理解と支援に大きな可能性を秘めています。本記事では、ひきこもりの実態とIFS療法の概要を解説し、IFS療法がひきこもり支援にどのように活用できるかを探っていきます。
ひきこもりとは
ひきこもりは、日本で1990年代に提唱された社会現象で、若者を中心に社会から孤立し、長期間にわたって自宅に引きこもる状態を指します[2][6]。具体的には以下のような特徴があります:
- 6ヶ月以上、自宅にひきこもっている
- 学校や仕事に行かない
- 家族以外との交流をほとんど持たない
- 精神疾患が主な原因ではない
日本政府の調査によると、15〜64歳のひきこもりは推計で約100万人に上るとされています[6]。ひきこもりの背景には、学業や就職の失敗、いじめ、社会不安などさまざまな要因が考えられます。
ひきこもりは単なる怠惰や甘えではなく、深刻な社会問題として認識されています。長期化すると本人の自尊心の低下や社会性の喪失、家族の疲弊など、さまざまな問題を引き起こします。
内的家族システム(IFS)療法とは
内的家族システム療法は、1980年代にアメリカの心理学者リチャード・シュワルツによって開発された心理療法の一つです[1][4]。IFS療法の基本的な考え方は以下の通りです:
- 人の心は複数の「パーツ」から成り立っている
- それぞれのパーツには固有の役割や感情がある
- パーツ同士が対立することで心の葛藤が生まれる
- 「セルフ」と呼ばれる中核的な自己が存在する
- セルフがパーツを調和させることで心の健康を取り戻せる
IFS療法では、クライアントが自身の内なるパーツに気づき、対話することを通じて、心の葛藤を解消していきます。例えば、「頑張り屋のパーツ」と「休みたがるパーツ」が対立している場合、両者の意図を理解し、バランスを取ることで心の調和を目指します。
IFS療法の特徴として、以下の点が挙げられます:
- パーツを否定せず、すべてのパーツに肯定的な意図があると考える
- セルフの持つ癒しの力を重視する
- トラウマや深い感情的苦痛にも効果的にアプローチできる
- 自己理解と自己受容を促進する
IFS療法は、うつ病、不安障害、PTSD、摂食障害など、さまざまな心理的問題に効果があるとされています[4]。
ひきこもりへのIFS療法の適用
ひきこもりとIFS療法。一見すると関連性が薄いように思えるかもしれません。しかし、IFS療法の考え方や手法は、ひきこもりの理解と支援に大きな可能性を秘めています。以下、IFS療法がひきこもり支援にどのように活用できるかを具体的に見ていきましょう。
1. ひきこもりの内的葛藤の理解
ひきこもりの人々の多くは、外に出たい気持ちと安全な家にいたい気持ちの間で葛藤しています。IFS療法の観点からは、これを異なるパーツの対立として捉えることができます。
例えば:
- 「社会に出たいパーツ」:将来への不安や焦り、自己実現の欲求を持つ
- 「引きこもりたいパーツ」:社会からの傷つきや失敗への恐れを持つ
IFS療法では、これらのパーツをそれぞれ尊重し、対話を通じてその意図を理解していきます。この過程で、ひきこもっている人自身が自分の内的な葛藤を客観的に理解し、受け入れることができるようになります。
2. トラウマや否定的経験への対処
多くのひきこもりケースでは、いじめや失敗体験などのトラウマ的な経験が背景にあります[2]。IFS療法は、トラウマへの効果的なアプローチ方法として知られています。
IFS療法では、トラウマを抱えたパーツ(「エグザイル」と呼ばれる)に対して、セルフがコンパッションを持って接近し、癒しをもたらします。この過程で、過去の否定的な経験を再体験することなく、安全に処理することができます。
ひきこもりの人々にとって、この手法は過去のトラウマを癒し、社会復帰への障壁を取り除く助けとなる可能性があります。
3. 自己批判や羞恥心への対処
ひきこもりの人々は、しばしば強い自己批判や羞恥心に苛まれています。「こんな自分はダメだ」「社会の役に立たない」といった否定的な自己イメージに囚われがちです。
IFS療法では、こうした批判的な声を「批判的なパーツ」として扱います。そして、このパーツの背後にある肯定的な意図(例:自分を守ろうとしている)を理解し、より建設的な役割を見出していきます。
この過程を通じて、ひきこもりの人々は自己受容を深め、自尊心を回復することができます。これは社会復帰への重要なステップとなります。
4. 家族システムの理解と調整
ひきこもりは本人だけでなく、家族全体に大きな影響を与えます。IFS療法の「システム」的な視点は、家族関係の理解と調整にも役立ちます。
例えば、両親の「心配するパーツ」と「叱咤激励するパーツ」が対立している場合、それぞれのパーツの意図を理解し、バランスを取ることで、より効果的な支援が可能になります。
家族療法の一環としてIFS療法を活用することで、ひきこもり本人と家族の双方にとって、より健全な関係性を築くことができるでしょう。
5. 段階的な社会復帰のサポート
ひきこもりからの回復は、一朝一夕には進みません。段階的なアプローチが必要です。IFS療法は、この段階的なプロセスをサポートする上で有効です。
例えば:
- **「安全を求めるパーツ」**を尊重しつつ、少しずつ外の世界に触れる
- **「チャレンジしたいパーツ」**を励まし、小さな成功体験を積み重ねる
- **「不安なパーツ」**をなだめながら、社会活動の範囲を徐々に広げる
IFS療法のアプローチを用いることで、ひきこもりの人々は自分のペースで、無理なく社会復帰のステップを踏んでいくことができます。
6. セルフリーダーシップの育成
IFS療法の核心は、「セルフ」と呼ばれる中核的な自己の存在です。セルフは、好奇心、冷静さ、思いやり、自信、勇気、明晰さ、創造性などの特質を持ち、内なるパーツをリードする役割を担います[1]。
ひきこもりの人々にとって、このセルフの力を育むことは非常に重要です。セルフリーダーシップを通じて、自分の人生の舵取りを自ら行う力を養うことができるからです。
IFS療法を通じてセルフにアクセスし、その力を育むことで、ひきこもりの人々は自己決定力を高め、主体的に社会復帰への道を歩むことができるようになります。
IFS療法を用いたひきこもり支援の実践例
ここでは、IFS療法を用いたひきこもり支援の架空の事例を紹介します。この例を通じて、IFS療法がどのようにひきこもり支援に活用できるかをより具体的にイメージしていただけるでしょう。
事例:太郎さん(28歳、5年間ひきこもり)
太郎さんは、大学卒業後に就職したものの、職場でのストレスから体調を崩し、退職。その後5年間、自宅にひきこもっていました。両親は心配しつつも、どう接すればいいか分からず、家族関係も緊張していました。
1. 内的パーツの探索
IFS療法士との初回セッションで、太郎さんは自分の中にある様々なパーツに気づきました:
- 「社会に出たいパーツ」:将来への不安と焦りを感じている
- 「引きこもりたいパーツ」:社会での失敗を恐れている
- 「自己批判的なパーツ」:自分をダメな人間だと責めている
2. パーツとの対話
セラピストの誘導のもと、太郎さんは各パーツと対話を始めました。特に「引きこもりたいパーツ」との対話で、このパーツが太郎さんを守ろうとしていることが分かりました。太郎さんはこのパーツに感謝の気持ちを表すと同時に、少しずつ外の世界に触れる準備があることを伝えました。
3. トラウマの処理
「社会に出たいパーツ」との対話を通じて、太郎さんは以前の職場でのトラウマ的な経験を思い出しました。IFS療法のテクニックを用いて、セルフがこの傷ついたパーツ(エグザイル)に寄り添い、癒しをもたらしました。この過程で、太郎さんは過去の経験を新たな視点で捉え直すことができました。
4. 自己批判への対処
「自己批判的なパーツ」との対話では、このパーツが太郎さんを奮い立たせようとしていたことが分かりました。太郎さんはこのパーツの意図を理解しつつ、より建設的な励まし方を提案。自己批判が徐々に自己受容へと変化していきました。
5. 家族システムの調整
両親もIFS療法のセッションに参加。両親の中にある「心配するパーツ」と「叱咤激励するパーツ」を探索し、それぞれの意図を理解しました。この過程で、家族全体のコミュニケーションが改善されました。
6. 段階的な社会復帰
セルフリーダーシップを育みながら、太郎さんは少しずつ外の世界に触れ始めました:
- 近所の図書館に通い始める
- オンラインの勉強会に参加する
- ボランティア活動に参加する
各ステップで生じる不安や躊躇は、IFS療法のテクニックを用いて対処しました。
結果
6ヶ月のIFS療法を通じて、太郎さんは徐々に自信を取り戻し、社会活動の範囲を広げていきました。1年後、太郎さんはパートタイムの仕事を始め、完全な引きこもり状態から脱することができました。家族関係も改善し、両親は太郎さんの回復プロセスを適切にサポートできるようになりました。
この事例は架空のものですが、IFS療法がひきこもり支援にどのように活用できるかを示しています。個々の内的パーツを理解し、調和させていくプロセスが、ひきこもりからの回復に大きな役割を果たす可能性があることが分かります。
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