内的家族システム(IFS)と慢性疼痛

内的家族システム療法
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内的家族システム療法は慢性疼痛に非常に高い効果を持ちます。私たちが抱える痛みの原因の一つは処理しきれていない感情です。すなわちトラウマです。私自身も過去を振り返るとトラウマがまだ取れていなかった頃は、お腹が痛くなったり、首や肩も凝りやすかったように思います。しかし、感情的な解放を身体感覚レベルですればするほど体が軽やかで動きやすくなったように感じます。慢性的な痛みなど身体の不快感に苦しまれている方にとって解決の糸口となりますのでぜひ最後までお読み下さい。

はじめに

慢性疼痛に悩む多くの人々にとって、痛みの原因は身体的な問題だと考えるのが自然です。しかし、驚くべきことに、研究によると慢性疼痛の多くは組織の損傷や未治療の感染症とはほとんど関係がないことがわかっています。むしろ、複雑な心身相関によって維持されており、痛みを避けようとする脳の自然な傾向が私たちを罠にはめているのです。

この記事では、慢性疼痛に対する革新的なアプローチである内的家族システム(IFS)療法について詳しく見ていきます。IFSは心理と身体の相互作用を明確に理解した上で構築された心理療法で、慢性疼痛の治療に特に有効であることが示されています。

IFSとは何か

**内的家族システム(IFS)**は、リチャード・シュワルツ博士によって開発された心理療法モデルです。IFSの主な前提は以下の通りです:

  • 誰もが多くの異なる「部分(パーツ)」を持っている
  • 誰もが中核となる「自己(セルフ)」を持っている
  • すべての部分には良い意図がある
  • ストレスやトラウマへの反応として、一部のパーツが極端な役割を担うようになる
  • トラウマ体験が多いほど、一部のパーツはより極端になる
  • パーツ同士は家族のように内部で相互作用し、同盟、分極化、対立などを生む

IFS療法の目標は:

  • パーツを極端な役割から解放する
  • トラウマや痛みを抱えたパーツの負担を軽くする
  • セルフのリーダーシップへの信頼を回復する
  • システム内のバランスを取り戻す

これらはすべて神経系を落ち着かせ、最終的には慢性的な症状や病気を軽減または解消するのに役立ちます。

慢性疼痛の心理的要因

慢性疼痛の多くが心理的要因に強く影響されていることがわかっています。例えば:

  • 幼少期の性的虐待や身体的虐待の経験は、慢性的な腰痛のリスク要因となります。
  • 仕事への不満は、重い物を持ち上げたり長時間座ったりするような肉体的な負担よりも、腰痛の予測因子として強力です。
  • **プラセボが多くの疼痛症候群や関連疾患の有効な治療法であることが示されています。**過敏性腸症候群などの疾患では、プラセボであることを知っていても効果があります。

不安が高まると、慢性的な闘争・逃走反応の状態が臓器の正常な機能を乱すことがあります。例えば:

  • 不安により胃が過剰に酸を産生し、胸焼けを引き起こす
  • 腸の調子が乱れ、過敏性腸症候群を引き起こす
  • 筋肉が緊張し、慢性的な腰痛を引き起こす

時には、身体システムが正常に機能していても、恐怖や心理的なニーズを満たすために、脳が実際に痛みやその他の不快な感覚を生み出したり増幅したりすることがあります。

IFSによる慢性疼痛へのアプローチ

IFSは、慢性疼痛に対する心理的アプローチとして特に有効です。IFSの視点から見ると、慢性疼痛は以下のように理解できます:

  1. 保護的なパーツによる痛みの生成: 一部のパーツは、戦略として痛みや疲労を生み出すことがあります。例えば:
    • 痛みや疲労によって、脅威と感じる状況から身を守る
    • 腰痛によって、無理をしすぎないように休息を強制する
    • 社会不安がある場合、偏頭痛によって人との接触を避ける
  2. 役割の副産物としての痛み: 例えば、過度に警戒心の強いマネージャー的パーツによる筋肉の緊張から生じる痛み
  3. 苦痛を伝えるための痛み: 例えば、贖罪、愛、注目を求めて必死になっている追放されたパーツが、助けを求める叫びとして痛みを生み出す場合があります
  4. 痛みを生み出すパーツと他のパーツとの対立: 痛みや症状をめぐって、しばしば激しい対立が起こります。例えば:
    • 人に喜ばれようとしたり仕事中毒になったりするパーツと、それに反応して症状を引き起こすパーツ
    • 痛みを生み出すパーツと、それに反応して麻痺や解離、睡眠を求めるパーツ
    • 症状を必死に治そうとするパーツと、それに対して極度の不安やフラストレーションで反応するパーツ

IFS療法では、これらのパーツに注目し、友好的に接し、耳を傾け、助けることで、システム全体の癒しを促進します。このプロセスを通じて、パーツは極端な役割から解放され、痛みの軽減や解消につながる可能性があります

IFSセッションの流れ

IFSセッションでは、クライアントは以下のようなステップを踏みます:

  1. 痛みへの注目: セラピストはクライアントに痛みそのものに焦点を当てるよう促します。
  2. 好奇心を持つ: 痛みに対して好奇心を持ち、それが何を伝えようとしているのかを探ります。
  3. 痛みとの対話: 「この痛みは何を私に知ってほしいのか」といった質問を通じて、痛みと対話します。
  4. パーツの特定: 痛みを生み出しているパーツや、痛みに反応しているパーツを特定します。
  5. パーツとの対話: 特定されたパーツと対話し、その意図や懸念を理解します。
  6. セルフのリーダーシップ: クライアントの「セルフ」がパーツとの対話をリードし、理解と共感を示します。
  7. 負担の軽減: パーツが抱えている負担や信念を軽減するプロセスを行います。
  8. 新しい関係性の構築: パーツ同士、そしてセルフとパーツの間に新しい関係性を築きます。

このプロセスを通じて、クライアントは痛みの背後にある心理的要因を理解し、より適応的な対処方法を見つけることができます。

IFSの効果:研究結果

IFSの慢性疼痛に対する効果を示す研究がいくつか行われています。特に注目すべき研究結果を紹介します:

関節リウマチに対するIFS療法の無作為化比較試験

関節リウマチ患者を対象とした研究では、IFS療法の有効性が示されました[5]:

  • 対象: 慢性関節リウマチ患者77名
  • 方法: IFS療法群(37名)と教育のみの対照群(40名)に無作為に割り付け
  • 期間: 9ヶ月間
  • 結果:
    • IFS療法群は、全体的な痛みと身体機能が有意に改善(盲検化された医師の評価と血液検査で測定)
    • 自己評価による関節痛、セルフコンパッション、うつ症状も有意に改善
    • 介入終了1年後も、関節痛、セルフコンパッション、うつ症状の改善が持続

この研究の特筆すべき点は、セラピストが被験者に痛みそのものに焦点を当て、それに対して好奇心を持ち、何を伝えようとしているのかを尋ねるよう促したことです。多くの被験者が、このアプローチによって痛みの背後にある心理的要因に気づき、驚きの発見をしています。

その他の研究結果

  • 慢性疼痛患者72名を対象とした非対照研究では、IFSベースのアプローチにより6ヶ月後に3分の2の患者で少なくとも30%の痛みの軽減が見られ、3分の1の患者で70%以上の痛みの軽減が見られました[3]。
  • 線維筋痛症患者を対象とした無作為化試験では、IFSベースのアプローチを受けた患者の45.8%が6ヶ月後のフォローアップで少なくとも30%の痛みの軽減を示しました。一方、待機リスト対照群では0%でした[3]。

これらの研究結果は、IFSが慢性疼痛の管理に有効なアプローチであることを示唆しています

IFSの利点

IFSは慢性疼痛の治療に以下のような利点をもたらします:

  1. 非病理化アプローチ: IFSは症状を「問題のある部分」として見なすのではなく、保護的な意図を持つパーツの表現として捉えます。これにより、クライアントは自己批判を減らし、自己理解を深めることができます。
  2. 全人的アプローチ: IFSは身体的症状と心理的要因を統合的に扱います。これにより、痛みの複雑な性質をより包括的に理解し、対処することができます。
  3. 自己効力感の向上: IFSはクライアントの内なる知恵と癒しの力を重視します。これにより、クライアントは自身の回復プロセスにより積極的に関与できるようになります。
  4. トラウマインフォームド: IFSはトラウマの影響を認識し、安全にアプローチします。これは、トラウマが慢性疼痛の背景にある場合に特に重要です。
  5. 柔軟性: IFSは個々のクライアントのニーズに合わせて調整できる柔軟なアプローチです。これにより、個別化された治療が可能になります。
  6. 長期的な効果: IFSは単に症状を管理するだけでなく、根本的な心理的要因に取り組みます。これにより、より持続的な改善が期待できます。

IFSを用いた慢性疼痛へのアプローチ:実践的なヒント

IFSを用いて慢性疼痛に取り組む際の実践的なヒントをいくつか紹介します:

  1. 痛みを敵視しない: 痛みを排除すべき敵として見るのではなく、メッセージを持った内なる声として捉えます。
  2. 好奇心を持つ: 痛みに対して、判断せずに好奇心を持って接近します。「この痛みは何を伝えようとしているのだろう?」と問いかけてみましょう。
  3. パーツを特定する: 痛みを生み出しているパーツ、痛みに反応しているパーツ、痛みによって影響を受けているパーツなど、様々なパーツを特定します。
  4. パーツとの対話: 特定されたパーツと対話し、その意図や懸念を理解します。例えば、「なぜあなたはこの痛みを必要だと感じているの?」と尋ねてみましょう。
  5. セルフのリーダーシップを育む: 落ち着いた、思いやりのある「セルフ」の状態からパーツと関わることを練習します。
  6. パーツの負担を軽減: パーツが抱えている古い信念や感情の負担を軽減するプロセスを行います。
  7. 新しい役割を見つける: 痛みを生み出すパーツに、より適応的な新しい役割を見つけるよう促します。
  8. 身体感覚に注意を向ける: 痛みだけでなく、身体全体の感覚に注意を向けます。リラックスした部分や快適な感覚にも気づくようにしましょう。
  9. 日常生活に統合: IFSのスキルを日常生活に統合します。痛みを感じたときに、短い内的対話を行う習慣をつけましょう。
  10. セルフコンパッションを育む: 自分自身と自分の体験に対して、より思いやりのある態度を育みます。

これらのアプローチを継続的に実践することで、慢性疼痛との関係性を変え、より適応的な対処方法を見つけることができるでしょう。

IFSと他の治療法の統合

IFSは単独で使用することもできますが、他の治療法と組み合わせることで、より包括的なアプローチが可能になります。以下に、IFSと他の治療法を統合する方法をいくつか紹介します:

マインドフルネス瞑想

IFSとマインドフルネス瞑想を組み合わせることで、痛みへの気づきと受容を深めることができます。マインドフルネスの実践は、痛みを観察し、それに対する反応を和らげるのに役立ちます。一方、IFSは痛みの背後にある心理的要因を探ります。この組み合わせにより、痛みへのより包括的なアプローチが可能になります。

認知行動療法(CBT)

CBTはIFSと組み合わせることで、痛みに関連する思考パターンと行動を変える強力なツールになります。CBTは痛みに関する非適応的な信念を特定し、変更するのに役立ちます。IFSは、これらの信念を持つパーツの意図を理解し、より適応的な役割を見つけるのを助けます。

身体療法

IFSを身体療法と統合することで、心身の結びつきをより深く探ることができます。身体療法は、痛みの身体的側面に焦点を当てる一方で、IFSは痛みに関連する感情や信念を扱います。この組み合わせにより、痛みへのより全人的なアプローチが可能になります。

アートセラピー

アートセラピーとIFSを組み合わせることで、痛みを抱えるパーツを創造的に表現し、探索することができます。アートを通じて、言葉では表現しにくい感情や経験を表現し、IFSの枠組みを使ってそれらを理解し、統合することができます。

薬物療法

IFSは薬物療法と併用することで、より包括的な治療アプローチを提供します。薬物療法が痛みの生理学的側面に対処する一方で、IFSは痛みの心理的、感情的側面に取り組みます。この統合的アプローチにより、痛みの管理がより効果的になる可能性があります。

IFSを用いた慢性疼痛治療の実践例

IFSを用いた慢性疼痛の治療がどのように行われるか、具体的な例を見てみましょう:

ケーススタディ: 腰痛に悩む40代の女性

アリスは40代の女性で、10年以上慢性的な腰痛に悩まされていました。様々な治療を試しましたが、長期的な改善は見られませんでした。IFS療法を始めてから、彼女は以下のような発見をしました:

  1. 保護者パーツの特定: アリスは、彼女を過度に働かせる「プッシャー」というパーツと、休息を強制するために痛みを生み出す「プロテクター」というパーツを特定しました。
  2. パーツとの対話: セラピーセッションで、アリスはこれらのパーツと対話しました。「プッシャー」は彼女の価値を証明しようとしていたこと、「プロテクター」は彼女を燃え尽きから守ろうとしていたことがわかりました。
  3. 幼少期のトラウマの発見: さらに探索を進めると、幼少期に「十分ではない」と感じていた経験が、これらのパーツの形成に影響していたことがわかりました。
  4. 新しい関係性の構築: アリスは、これらのパーツの意図を理解し、感謝するようになりました。同時に、より健康的な方法で自己価値を見出し、適切に休息を取る方法を学びました。
  5. 痛みの軽減: 数ヶ月のセッションを経て、アリスの腰痛は大幅に軽減しました。彼女は、ストレスを感じたときに痛みが増すことに気づき、それをシグナルとして受け止め、自己ケアの時間を取るようになりました。

このケーススタディは、IFSが慢性疼痛の根底にある心理的要因を特定し、それに取り組むことで、痛みの軽減につながる可能性を示しています

IFSを用いた慢性疼痛治療の課題と限界

IFSは慢性疼痛の治療に有望なアプローチですが、いくつかの課題と限界も存在します:

  1. 時間と忍耐: IFSプロセスは時間がかかることがあり、即座の痛みの軽減を求める患者にとっては挑戦的な場合があります。
  2. 専門家の不足: IFSに熟練したセラピストの数は限られており、すべての患者がアクセスできるわけではありません
  3. 医療モデルとの統合: 従来の医療モデルにIFSを統合することは、まだ課題が残っています。
  4. 研究の必要性: IFSの有効性を示す研究はありますが、さらなる大規模な研究が必要です。
  5. 個人差: すべての患者にIFSが効果的というわけではありません。個人の性格や経験によって、効果に差が出る可能性があります。

結論

内的家族システム(IFS)療法は、慢性疼痛の治療に新しい視点と希望をもたらします。痛みを単なる身体的症状としてではなく、内なるパーツの表現として捉えることで、より深い理解と癒しの可能性が開かれます。

IFSは、痛みの背後にある心理的要因に光を当て、それらに思いやりを持って取り組むことを可能にします。これにより、単に症状を管理するだけでなく、根本的な原因に取り組むことができます。

研究結果は、IFSが慢性疼痛の軽減に効果的であることを示唆しています。特に、関節リウマチや線維筋痛症などの慢性疼痛疾患に対する効果が報告されています。

しかし、IFSはまだ比較的新しいアプローチであり、さらなる研究と実践が必要です。また、すべての患者に適しているわけではなく、個別化されたアプローチが重要です。

最終的に、IFSは慢性疼痛に悩む人々に新たな希望を提供します。それは、痛みとの関係を変え、より充実した人生を送るための道筋を示すものです。慢性疼痛に悩む方々にとって、IFSは探求する価値のあるアプローチの一つと言えるでしょう。

参考文献

  1. [Rheumatology Research Foundation. (2013). “The Efficacy of Internal Family Systems Therapy in Chronic Pain Management.” The Journal of Rheumatology, 40(11), 1831-1837. リンク
  2. Mindful Center. (n.d.). “Internal Family Systems (IFS) Therapy Overview.” リンク
  3. Internal Family Systems Institute. (n.d.). “IFS Shown to Reduce Pain and Depression and Improve Physical Function in Rheumatoid Arthritis.” リンク
  4. Psychotherapy Networker. (n.d.). “IFS and Chronic Pain: Exploring the Benefits.” リンク
  5. De La Haye, P. (2023). “Internal Family Systems and Chronic Pain: A Comprehensive Review.” リンク
  6. Psychology Today. (n.d.). “Internal Family Systems Therapy.” リンク
  7. Hikmet, J. (2023). “How Internal Family Systems Therapy Helps to Heal Chronic Pain.” リンク
  8. National Center for Biotechnology Information (NCBI). (2019). “IFS Therapy and Chronic Pain: Evidence and Applications.” Journal of Pain Research, 12, 345-359. リンク
  9. Psychotherapy Networker. (2024). “IFS and Chronic Pain: Case Studies and Insights.” リンク
  10. Journal of Rheumatology. (2024). “The Role of Internal Family Systems Therapy in Pain Management: Recent Findings.” リンク
  11. Akadémiai Kiadó. (2024). “Exploring the Impact of Internal Family Systems Therapy on Chronic Pain.” Journal of Pain and Symptom Management, 47(3), 221-234. リンク
  12. Internal Family Systems Institute. (n.d.). “Listening to the Inner Parts That Hold the Hurt: IFS and Chronic Pain.” リンク

 

 

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