トラウマとは何か
トラウマとは、恐ろしい出来事を経験したり目撃したりすることで引き起こされる心理的な傷のことです。単発の出来事によって引き起こされる場合もあれば、長期にわたる一連の出来事によって引き起こされる複雑性PTSDの場合もあります。
トラウマの症状には以下のようなものがあります:
- 侵入的な記憶
- 回避行動
- 身体的・感情的反応の変化
- 思考や気分の否定的な変化
これらの症状は出来事の直後に現れることもあれば、何年も経ってから現れることもあります。症状の程度は軽度から重度まで様々で、生活の質に大きな影響を与える可能性があります。
DBTとは
弁証法的行動療法 (DBT) は、マーシャ・リネハンによって開発された心理療法の一種です。もともとは境界性パーソナリティ障害の治療のために開発されましたが、現在ではトラウマを含む様々な精神疾患の治療に応用されています。
DBTの主な特徴は以下の通りです:
- 弁証法的思考: 極端な考え方のバランスを取り、中道を見出すことを重視します。
- スキルトレーニング: マインドフルネス、ディストレス・トレランス、感情調整、対人関係スキルなどを学びます。
- 受容と変化のバランス: 現状を受け入れながら、より健康的な行動への変化を促します。
DBTの目標は、クライアントが**「生きるに値する人生を築く」ことです。これは、スキルワークを通じて「地獄から抜け出す」**ことから始まります。
トラウマ治療におけるDBTの役割
DBTは、トラウマ治療において重要な役割を果たします。特にトラウマに焦点を当てたDBT (TF-DBT) は、標準的なDBTを修正してトラウマ症状の治療に特化したものです。
DBTがトラウマ症状の軽減にどのように役立つかを見ていきましょう:
- マインドフルネス: 現在の瞬間に意識を向けるグラウンディング技法を学びます。これは、過去のトラウマ体験に囚われることを防ぎます。
- 感情調整: 侵入的な思考や記憶に対する感情的反応をコントロールする方法を学びます。
- ディストレス・トレランス: 苦痛な状況や感情に耐える能力を高めます。
- 対人関係スキル: 健全な人間関係を築き、サポートを求める方法を学びます。
- 電話コーチング: セッション外でも危機介入のサポートを受けられます。
これらのスキルは、個別療法やグループセッションを通じて学び、日常生活の中で実践していきます。
DBTのトラウマ治療における効果
複数の研究が、トラウマ治療におけるDBTの効果を示しています:
- ある研究では、DBT治療によってPTSD治療を妨げる行動が減少したことが分かりました。
- 複雑性PTSDの治療において、DBT-PTSDは認知処理療法 (CPT) と比較してより大きな症状の改善をもたらしました。
- 長時間曝露療法 (PE) を組み合わせたDBTプロトコルは、PEを含まないDBTよりも大きく安定した治療効果をもたらしました。
- 実際の臨床現場での研究でも、DBT-PTSDは通常治療 (TAU) と比較して、主要なアウトカム指標において優れた改善を示しました。
これらの研究結果は、DBTがトラウマ治療において有効な選択肢であることを示しています。特に、他の治療法と組み合わせることで、より大きな効果が期待できるようです。
DBTを用いたトラウマ治療の実際
DBTを用いたトラウマ治療は、通常以下のような構成で行われます:
- 個別療法: 週1回の個別セッションで、トラウマ体験の処理や個人的な課題に取り組みます。
- スキルグループ: 週1回のグループセッションで、DBTの各モジュールのスキルを学びます。
- 電話コーチング: 危機的状況や困難な場面で、セッション外でもサポートを受けられます。
- セラピストコンサルテーションチーム: 治療者たちが定期的に集まり、ケースの検討や支援を行います。
治療の流れは通常、以下のような段階を踏みます:
- 安定化: 安全な環境を整え、基本的なスキルを学びます。
- トラウマ処理: トラウマ記憶の再処理や意味づけの作業を行います。
- 統合: 新しい視点や対処法を日常生活に統合していきます。
- 再発防止: 学んだスキルを維持し、将来の困難に備えます。
この過程を通じて、クライアントは徐々にトラウマ症状を軽減し、より適応的な生活を送れるようになっていきます。
コメント